AIにできないこと——プロンプトを配り続けた僕が、やっと気づいた本当の使い方
2026.08.14 | プロンプト工房
「AIが使えない」「役に立たない」と感じたことはないか
ChatGPTもClaudeもGeminiも試した。プロンプトも工夫した。それでも「なんか使えない」「思ったより役に立たない」という感覚が抜けない——そういう声をよく聞く。
その感覚、AIの性能のせいじゃない可能性が高い。
前職でAI活用推進を担当していた頃、僕はそれをやらかしていた側だった。
プロンプト × AI
生成AIがうまく使えない理由は、ツールじゃなくて「これ」だった
プロンプト工房 | 2026.07.20
社内にプロンプトを配りまくっていた
「この業務にはこのプロンプトを使って」と書いたドキュメントを作って、関係者に配り続けていた。
最初は反応があった。でも使い続けたのは一部の人だけだった。
結局、うまくハマった人——良い回答が引き出せた人——だけが使い続けた。プロンプトは属人化していく。配っても広がらない。
今となってはわかる。あれは意味がなかった。プロンプトを配っても、そのプロンプトがなぜそう書かれているのか、どういう判断軸で作られているのかが伝わらなければ、使う人によって出力はバラバラになる。
このやり方、実は今でも多くの企業でやられている。社内ライブラリでプロンプトを共有したり、Slackに貼り付けたりする。でも誰かが少し改造して、また誰かが改造して、最終的にバラバラな出力が出てくる。
AIが役に立たなかった、あの頃の話
もう一つ、実際に精度が出なくて困ったことがある。
お客様の困りごとに合わせて、社内のソリューション(研修教材)を探すという業務だ。
「このお客様の課題に、どの教材が合うか」を判断するのは、本来ベテランの仕事だった。長年の経験から、困りごととソリューションを結びつける「軸」を持っていた。でもその軸は、誰かの頭の中にしかなかった。
AIにその業務を任せようとしたとき、精度が全然出なかった。当然だ。判断軸が言語化されていないまま、AIに渡そうとしていたから。
今ならわかる。やっておくべきだったのは2つだ。
「どんな判断軸で困りごととソリューションを紐づけていたか」を言語化すること。そしてその判断軸をAIエージェントに渡すこと。
この順番を踏まずに、プロンプトを工夫しようとしていた。だからうまくいかなかった。
AIに「売上を集計して」と聞くと、何が起きるか
あるPodcastで、こんな話が出ていた。
経営会議で「今月の売上は?」と聞く。
営業担当は「1億円です」と答える。
経理部は「9,800万円です」と答える。
経営企画は「9,000万円です」と答える。
どれも社内のデータベースから引っ張ってきた数字だ。ハルシネーション(AIの幻覚)じゃない。みんな正直に答えている。
なぜズレるのか。「売上」の定義が、部門ごとに違うからだ。
- 営業部は「受注ベース」で考える
- 経理部は「請求・入金ベース」で管理する
- 経営企画は「返品・値引き調整後の純売上」を見る
どれも間違っていない。ただ、定義が揃っていない。
この状態でAIに「売上を集計して」と頼むと、AIはどこかのデータを参照して数字を出す。でもそれが「どの売上」なのかは、誰にもわからない。
実は2年前に、似たことを書いていた
2024年、僕は「セマンティック検索とは何か」という記事を書いた。
検索エンジンが言葉の意味を理解して、ユーザーの意図に合った結果を返す技術の話だ。当時は「便利な検索技術」として整理していた。
→ セマンティック検索って何?〜生成AIにとって大事なこと〜(note)
あの記事を書いた頃、まさか自分が前職でこの概念の「失敗版」を体験していたとは思っていなかった。
セマンティックレイヤーという考え方
前述のPodcastで紹介されていた解決策が「セマンティックレイヤー」という概念だ。
難しく聞こえるけど、本質はシンプルだ。
AIのための「用語集+設計図」、つまり地図を作るということだ。
「売上」という言葉が出てきたとき、AIがどのデータを、どの定義で参照するかを事前に決めておく。そうするとAIは迷わない。営業部が聞いても、経理部が聞いても、経営企画が聞いても、同じ定義で同じ数字が出てくる。
プロンプトをどれだけ上手に書いても、この地図がなければ揃わない。逆に言うと、この地図さえあれば、プロンプトは短くていい。
そしてこの「地図」こそ、僕がずっと言い続けてきた「秘伝のタレ」だ。
現場のベテランが持っている判断軸・定義・文脈——それを言語化してAIに渡したとき、AIは初めて「その会社らしい答え」を出せるようになる。
詳しくはこのPodcastがわかりやすい。
→ デデデータ「セマンティックレイヤー特集」(Spotify)
プロンプト × AI
「プロンプトはもう古い」と言われる時代に、なぜ僕はプロンプトの勉強会をしているのか
プロンプト工房 | 2026.07.12
「社長の右腕」は、実はセマンティックレイヤーを聞きに行く構造になっている
僕が作った「社長の右腕」というツールがある。
中小企業の社長・現場責任者が、経営の悩みをAIに話しかけると、整理して解決策と手順まで出してくれるというものだ。
このツール、初回に必ずやることがある。
社長自身の「考え方・判断のクセ」を、AIが問いかけながら引き出す。
値引きの判断基準は何か。採用で重視するのは何か。クレーム対応で絶対に譲らないことは何か。
これを初回設定で言語化する。そしてその判断軸を元に、25領域の業務を動かす。
これはまさに、セマンティックレイヤーの考え方だ。
汎用AIに「クレーム対応して」と頼んでも、教科書的な回答しか返ってこない。でも「この社長は◯◯を大切にしていて、◯◯だけは絶対に避ける」という判断軸がAIに入っていれば、その社長らしい回答が出てくる。
プロンプトを工夫する前に、判断軸を渡す。この順番だ。
暗黙知 × AI
なぜプロンプト工房は一人でこんなにも多くの事業を手がけられるのか
プロンプト工房 | 2026.06.29
よくある疑問に答える
Q. RAGを使えば解決できるんじゃないか?
RAG(検索拡張生成)は、AIに社内ドキュメントを参照させる技術だ。導入すると確かに回答精度は上がる。
でも問題がある。RAGを使う側が、悪気なく「自分が聞きたいように聞く」から、求めている答えが出てこないことがある。
たとえば「解約率を出して」と聞いたとき、社内に2024年版・2025年版・営業企画版と定義が違う3つのドキュメントがあったとする。AIはどれを使えばいいか迷う。ひどい場合は勝手に平均を出してくる。
セマンティックレイヤー——つまり秘伝のタレ——がない状態は、入社したばかりの新人が答えるのと同じ状況だ。知識はあっても、判断軸がない。だから一般的な答えしか出てこない。
秘伝のタレがあることで、AIはベテランとして回答できるようになる。これがRAGとセマンティックレイヤーの決定的な違いだ。
AIエージェントストラテジスト
AIエージェント導入、最初につまずいたのは「データが多すぎる」だった
プロンプト工房 | 2026.08.06
Q. プロンプトエンジニアリングで何とかならないか?
前職で僕がやっていたのが、まさにこれだ。「この業務にはこのプロンプトを使って」と社内に配り続けた。
結果、うまくハマった人——良い回答が引き出せた人——だけが使い続けた。プロンプトは属人化する。配っても広がらない。
さらに、共有したプロンプトを誰かが少し改造する。また誰かが改造する。最終的にバラバラな出力が出てくる。
プロンプトで縛ろうとすると、プロンプトがどんどん長くなっていく。でも長くなるほど、誰かが魔改造する。この繰り返しだ。プロンプトエンジニアリングは、個人で使う分には有効だ。でも組織に広げようとすると、必ず限界が来る。
プロンプト × AI
プロンプトが書けない?それ、書き方じゃなくて「構造」の問題だった
プロンプト工房 | 2026.07.26
Q. セマンティックレイヤーって、辞書やデータカタログと何が違うの?
辞書は言葉の意味を説明するもの。データカタログはデータを探索するためのもの。どちらも「人間が読むため」のものだ。
セマンティックレイヤーは「AIが読むための地図」だ。AIが自律的に動くとき、何をどの順番で見に行けばいいかを教えてくれる設計図に近い。
そしてこの地図こそが、プロンプト工房が言う「秘伝のタレ」だ。現場のベテランが持っている判断軸・定義・文脈を言語化して、AIが読める形に整えたもの。これがあるかないかで、AIの回答品質はまったく変わる。
Q. ChatGPTやClaudeで内製化できるんじゃないか?
できる。Claude CodeやCodexを使えば技術的には実現できる。
ただ、時間がかかる。専門家が言うには、ちゃんとやろうとすると2年ぐらいかかる。
早くやりたいなら、AIドリブンな組織づくりのための教育と、専門家の伴走が必要だ。そして何より、現場が主導でないとうまくいかない。秘伝のタレは現場にしかないからだ。
内製化に挑戦すること自体は悪くない。ただ「自社でやり切れるか」を冷静に判断してから始めた方がいい。難しいなら、専門家に任せることも一つの選択肢だ。
AIエージェントストラテジスト
「Gemini Notebookで始めて、Gemで作り直した」── 営業ノウハウの属人化をAIで解消するまで
プロンプト工房 | 2026.08.12
Q. AIが間違った回答をしているか、見分ける方法はあるの?
違和感を感じたり「本当?」と思ったら、エビデンスを聞くことだ。「何を根拠にその回答をしているの?」と聞いてみる。
AIは根拠を示せる。どのデータを参照したか、どの定義を使ったかを説明できる。それが自社のルールや実態と合っているかを確認する。合っていなければ、問題はAIではなく「渡している情報の定義」にある。
AIにできないことは、実は一つだけだ
「AIが使えない」「役に立たない」と感じるとき、原因はほぼ100%同じところにある。
AIは、渡したものしか動かない。
判断軸が渡されていなければ、教科書的な回答しか出てこない。定義が揃っていなければ、部門ごとに違う数字が出てくる。古いデータが混じっていれば、古い情報を元に動く。
AIにできないことがあるとすれば、「渡されていない情報を使うこと」だけだ。
プロンプトを磨く前に、渡す情報を整理する。定義を揃える。判断軸を言語化する。
この順番を逆にしてきた組織が、「AIを入れたけど使えない」という結論になっている。
「渡す情報」から整理してみませんか
秘伝のタレの言語化から、AI活用の実装まで。まずはご自身の現状を確認してみてください。