「AIはいらない」と感じた人へ。AIが学習できない、たった一つのこと
2026.09.01 | 東健太(プロンプト工房)
結論を先に伝えておくと、「AIはいらない」と感じる直感は間違っていません。生成AIには、どれだけ進化しても学習できないものが確かにあります。ただし、いらないのはAIそのものではなく「暗黙知を持たないAI」です。詳細な中身が知りたい方はそのまま続けて読んでみてください。
「AIはいらない」、その直感は間違っていない
「AIなんていらないんじゃないか」と感じたことがある人は、少なくないと思う。
ChatGPTもClaudeもGeminiも試した。一般論を返してくるだけで、結局自分で考えたほうが早い。そう感じた経験があるなら、その直感は的外れじゃない。
安宅和人さんの『イシューからはじめよ[改訂版](安宅和人)』を読みながら、この問いにぶつかったことがある。「プロンプト工房のキャッチコピー『秘伝のタレを言語化して、AIを右腕化する』は、そもそもイシューを見極められているのか?」。Claudeと対話しながら壁打ちする中で、見えてきたことがある。
生成AIが唯一持っていないもの
生成AIが学習できるのは、テキスト化された情報だけだ。だから一般的な知識や文章を生成する能力は、人間を超えている部分もある。
でも、こういうものは学習できない。
夏の炎天下の日に、設備屋の社長がどんな顔をして工具を買いに来るか。クレーム電話の向こうから伝わってくる、顧客のわずかな声の震え。何か悩んでいるお客様が見せる、しぐさや行動の変化。
現場の空気感、人間の感情の機微——これはテキストにならない。だから生成AIはどれだけ進化しても、学習することができない。
でも、現場を歩いた人間には、体に染み付いている。
犬の道を歩いた人間にしか、わからないこと
僕は16年間、工具の専門セレクトショップで、販売スタッフから店長、エリアマネージャー、法人営業部長、執行役員まで歩いてきた。『イシューからはじめよ』の言葉で言えば、完全に「犬の道」——イシューを見極めずに、がむしゃらに仕事の量をこなしてきた人間だ。
でも、この犬の道を歩いてきたからこそ、見えてきたものがある。
AIエージェントに入れるべき「秘伝のタレ(暗黙知)」は、3層で整理できる。
第1層は業務フロー。何をどの順番でやるか。比較的言語化しやすい層だ。
第2層は判断軸。どう判断するか、なぜそうするか。「うちは値引きより関係性を優先する」「クレームは必ず当日中に一次回答する」。これが秘伝のタレの本体で、一番言語化が難しくて、一番価値がある。
第3層は文脈・背景。業界の慣習、社内の暗黙ルール、取引先固有の事情。マニュアルには書いていない。でも現場の人間なら全員知っている。
この3層を持たないAIエージェントは、一般論しか返さない。「業務効率化のためにはXXXが有効です」——そういう、どこかで見たような答えを出し続けるだけだ。
いらないのはAI全体ではなく「暗黙知を持たないAI」
大阪で工具店の店長をしていた頃、認知ゼロからのスタートだった。カーディーラーを自転車と車で一軒一軒飛び込み営業した。多い日は1日80件回った。来てくれたお客様は名前を覚え、どんな工具を買ってくれたかまで覚えた。このPDCAを約2年半続け、月間売上は450万円から1,010万円になった。
この頃に染み付いた判断軸——「止まることが最大の失敗。試行錯誤し続けることこそが前進だ」——は、今のプロンプト工房の仕事にもそのまま生きている。
もしAIに「認知拡大の施策を提案して」と聞いたら、一般的な施策のリストが返ってくるだろう。でも「止まることが最大の失敗」という判断軸を持ったAIエージェントなら、もっと踏み込んだ、その人らしい提案ができる。
「AIはいらない」という感覚は、多くの場合、この判断軸を持たない「一般論しか返さないAI」に対する感覚だ。判断軸を渡した瞬間、AIは違うものになる。
あなたが「これくらい当たり前」と思っていることが、金脈かもしれない
M&Aで3年間・500社以上のIMを見てきたビジネス判断眼も、店舗の立ち上げで磨いた接客の型も、深夜のクレーム電話で培った顧客対応の感覚も——全部秘伝のタレだ。
あなたが「これくらい当たり前だ」と思っている判断のクセ。「なんとなくこうする」という行動の理由。それは当たり前じゃない。現場を歩いてきたあなたにしか持てないものだ。
「AIはいらない」と感じたなら、まずその感覚を大事にしてほしい。その上で、自分の中にある暗黙知が何かを言語化してみてほしい。AIが使えない原因は、プロンプトではなく「何をさせるか」が決まっていないことだとすれば、その「何をさせるか」の土台になるのが、まさにこの暗黙知だ。
よくある質問
Q. 結局、AIは使ったほうがいいのですか?
A. 暗黙知を渡す前提であれば、使う価値は大きいです。逆に、暗黙知を渡さずに一般論を求めるだけなら、「いらない」という感覚は正しいと言えます。
Q. 現場の空気感を、AIに教えることはできないのですか?
A. 空気感そのものを教えることはできませんが、「その空気感を踏まえてどう判断したか」という結果である判断軸なら、言語化して渡すことができます。感覚そのものではなく、感覚から導かれた行動のルールを渡す、というイメージです。
Q. 「秘伝のタレ」を言語化するのは、難しくないですか?
A. 一人で全部を整理しようとすると難しく感じますが、対話を通じて引き出すことは可能です。プロンプト工房では、AIとの対話を通じて自分の判断軸や強みを言語化するツールを無料で公開しています。